大卒レベルの学歴があり高度な知識や技能を持つ外国人を対象とした「高度外国人材」という在留資格があります。日本人と同等の給与水準でITや通訳など専門的な業務に就くことが前提で、工場でのライン作業、飲食店での接客などの労働は認められません。技能実習生と違い、家族を帯同することも可能です。
こうした「高度外国人材」を採用しようと、福井市内の企業がフィリピンの若手エンジニアを招き、職場体験を実施しました。
5月中旬、チタンなどの金属加工を手掛ける福井市内のヤマウチマテックスを、フィリピンの若手エンジニアたちが訪れました。採用活動の一環で、石川や秋田、東京などの4社を回っています。
大卒レベルの学歴があり、高度や知識や技能を持つ、高度外国人材。単純労働ではなく、将来の幹部候補も視野に採用される外国人です。この日は、フィリピンのトップレベルの大学などで機械工学や電気工学を専攻し、エンジニアとして高い知識を持った7人が参加しました。
フィリピンは国策としてエンジニアの育成に力を入れていますが、主要産業が観光であることや、若者の人口が多く雇用機会が不足しているなどなどから、背景にはエンジニアとしてのキャリアを築きにくい環境があります。
ヤマウチマテックスでは、人口減少で人材確保が難しくなる中、労働力を求めて海外に生産拠点を移すのではなく、優秀な人材による“福井でのモノづくり”にこだわりたいと、高度な知識を持つ外国人の採用を検討しています。
その理由について山内隆嗣社長は説明します。「海外に低コストの労働力を求め、渡り鳥のように国を渡っていくモノづくりが嫌。福井は食も自然も豊かで人間らしい生活ができる場所なので、豊かな人間性を培いながらできる製造業を続けたいという思いで(高度外国人材の採用を)考えた」
この日、7人のフィリピン人は職場見学や工場での作業を体験。昼には、従業員との交流会も開かれ、アニメやロボット技術をきっかけに日本を好きになったという話で盛り上がっていました。
参加したフィリピン人は―
「I think this company is very stable.It has a lot of potential to grow more.So that’s why I want to work here.」
この会社はとても安定していて、さらに成長する大きな可能性があると思う。だから私はここで働きたいと思った。
「It will be for career growth, because Japanese companies are so famous.They’re known worldwide.」
日本企業は世界的にも有名なのでキャリアアップにつながると思う。
受け入れにあたった社員も、前向きにとらえています。「すごく意欲的に学んでくれて、一緒に働けたらいいなという風に思いました。英語力を高めたいので、たくさんコミュニケーションを取りたいなと思います」
今回の職場体験を企画したフィリピン企業「Zuitt」の鈴木彬さんは、フィリピンならではの就職事情について、こう話します。「フィリピン人にとって、外に出て外貨を稼ぐのは普通のこと。特に最先端のものづくりを学びながら、学生時代に学んだことを活かせるのは、彼らにとって非常に魅力的」
山内社長には、こんな思いも。「親元を離れて、海外で良い仕事ができるところで頑張っていこうという気概は、おそらく今の日本の若者が持っていないもの。それが、いい刺激になることも期待している」
県内には現在、高度外国人材と同じ在留資格を持つ人は895人いて、年々増加しています。フィリピンの平均年齢は25歳と若く、若年層の人口が多いため若者の失業率が高くなっています。また、大卒初任給の平均は5万円前後と日本に比べて低い現状があります。こうした背景から、フィリピンの優秀な若者と人手不足に悩む日本企業は、互いに魅力を感じているようでした。
今回の職場体験で、ヤマウチマテックスには3人のフィリピン人の入社が決まったということです。福井のものづくり技術を次世代へ継承するためだけでなく、多様な文化がミックスされることで生まれる効果も期待される、高度外国人材。今後の展開に注目です。